恋の想いを託す花としてもスイセンは描かれます。
一面のスイセン畑のポスターが印象的だった、奇才ティム・バートン監督の「BIG FISH」。
アメリカの作家ダニエル・ウォレスの神話的な私小説「ビッグ・フィッシュ」をティム・バートン監督が映画化したものですが、 原作にはない非常に美しい挿話が付け加えられています。
主人公のひたむきな青年エドワード・ブルーム(Edward Bloom(名前を直訳すると花の幸せな守護者!)は、
一目ぼれしたサンドラの住んでいる場所を、三年かかってサーカスの団長に教えてもらいます。
そしてサンドラの好きな花だという、黄色のラッパズイセンの花束をもって、家まで押しかけました。
ところが彼女にはすでに婚約者がいました(エドと同郷の嫌な男です)
一旦引き下がろうとも考えるエドですが、落ち込んだり諦めるのは性に合いません。あらゆる手段を用いて、サンドラに愛を伝えます。
その最後の決め手が、一万本のラッパズイセンでした。五つの州を「憧れの人を口説き落とすのに是非とも必要なんです!」
と言いながら走り回って。夜中のうちにサンドラの庭をそれで覆いつくし、彼女が自然に目覚めるまで六時間も黄色いスイセン畑で
笑顔を浮かべながら立って待っていました。そして告白するのです。
この撮影には、実際に本物のラッパズイセン3000本が使われ、その物量作戦には 観るものを圧倒する迫力があります、この場面は、脚本を書いたジョン・オーガストが原作者のウォレスと相談しながら膨らませたものであり、 その精神を見事に受け継いでいます。
水仙の英名・学名は「Narcissusナルシス」で、名前の由来は、ギリシャ神話の美青年ナルキッソスが スイセンに変身した伝説です。このナルキッソスの話がナルシズム(自己愛)や、ナルシスト(自己愛者)の語源となっています。
エドも確かに、自惚れやナルシストの自信家でした。 しかしみんなに愛される、憎めない人気者。 その自信は、どんな試練があってもめげずに立ち直る、その楽観的な行動力に裏打ちされていたのです。
たった一本のラッパズイセンは鼻もちならず、七本のスイセンでは悲しいだけでした。 しかし一万本ともなるともはや芸術の領域です。 これによって見事サンドラを口説き落とすことができたエドは、自分の力を信じることの素晴らしさと、その力が 自分を含めたあらゆる人の運命を変えることができることを私たちに教えてくれるのです。